「子どものころに児童書を読めることは、幸福なこと」と話す斜線堂さん(撮影/佐藤麻美)

「子どもに本を読んでほしいけどなかなか定着しない」。そう悩む子育て中の親は少なくないだろう。2024年4月19日に自身初となる児童書『プロジェクト・モリアーティ』(朝日新聞出版)を上梓した、人気ミステリー作家・斜線堂有紀さんは、幼稚園児のころから読書をはじめ、小学生のころには毎日新しい本を読んでいたという。そんな斜線堂さんに読書好きになった理由を聞くと、母親による驚きの教育方針が見えてきた。子どもを読書好きにする秘訣や幼少期に児童書を読む重要性、そして『プロジェクト・モリアーティ』に込めた思いなど、話を聞いた。

【写真】発売に先駆けて作られたサンプル本

*  *  *

――初めて読んだ本を覚えていますか?

こいでやすこ先生の『おなべ おなべ にえたかな』という絵本です。幼稚園の年中さんくらいだったと思います。当時はよく熱を出す病気がちの子どもでしたが、病院が大嫌いで先生を前に大暴れしていたのを覚えています。見かねた母が「病院に行くなら本を買ってあげる」と提案したのが、本を読み始めたきっかけです。

――その他にはどういった本を読んでいましたか?

幼稚園のころは漫画『ドラえもん』や絵本をよく読んでいました。小学生になると、しだいに文字が多い本を読むようになりました。あのころの私にとって読書は「楽しむもの」でしたが、同時に「時間つぶし」という側面もあったと思います。そうなると、漫画や絵本だとすぐに読み終わってしまうし、すぐに飽きてしまう。なんとか長く楽しめて時間を費やせる本はないかと考えて、活字本を読むようになったんです。

勉強が嫌いな子どもだった

――本好きが高じて、小学校では授業を抜け出して図書室へ通っていたそうですね。

とにかく勉強が嫌いな子どもだったんです(笑)。

――国語の授業も嫌いでしたか?

授業で取り扱われるころには、すでに教科書を全て読み終えていたので退屈で仕方がなかったです。低学年のときは図書室に通って分厚い本を探して読んで、先生と親に怒られるという日々を繰り返していました(笑)。そのころ、尊敬する児童文学作家のはやみねかおる先生の本と出合ったんです。夏休みに雨が続いた時期があって、外で遊びたいのに遊べない私を不憫に思った母が、はやみね先生の『怪盗クイーン』を買ってくれたんです。それがすごく面白くて「どこにも出かけなくていいから、はやみね先生の本をもっと買ってほしい」と頼みました。そしたら母が本当に全部買ってくれたんです。

――全部ですか?

はい。本屋にあった、はやみね先生の本を全部買ってくれました。先生の本は、いまでも読み返すくらい大好きな本がいっぱいで、私にとってのミステリーの入り口といえば、はやみね作品です。

次のページ