鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)

 通っていた中学高校がいわゆる「ブラック校則」のある学校だったという23歳女性。しかし、働き始めると職場にも納得できない「縛り」があることを知り、学生時代のトラウマから抜け出せないという相談者に、鴻上尚史が提案した生き方とは。

【相談218】自分は「ブラック校則」の苦しみを引きずっていて、今でも救われない気持ちになります(23歳 女性 かわ)

 高校卒業後何年経ってもずっと校則に縛られている気分でとても苦しいです。

 私が通っていた中学高校は校則が厳しく、たぶんブラック校則にあたるものもいくつかあったと思います。世間的に見て厳しいのか普通なのか正直はっきりとはわからないのですが……、

・メイク禁止、休日でもノーメイクが好ましい

・地毛登録必須

・整髪料使用禁止

・眉毛の手入れ禁止

・爪は少しも伸ばしてはいけない

・髪型は、肩につかないボブまたはショート、耳より下の位置でひっつめ髪、耳より下の位置で2つ結び、のいずれか

・いわゆる触角(顔周りの髪の毛) やおくれ毛禁止

・前髪で眉毛を覆ってはいけない

・前髪に髪ゴムを使ってはいけない

・スカート丈は膝下

・下着は白無地(そんなものどこで買うんだ)

・スカートの下に体操着(半ズボン)を履くのは禁止(履かないと透けるのに)

 軽く思い出しただけでもこんな感じです。

 多感な時期に、コンプレックスを隠すことを少しも許されず、常に目線は斜め下でした。

 ただ当時は「うちなんか緩いほうよ」「○○高なんか勝手に前髪切られるんやけんね」と先生達が言うので、そうか、緩いほうなのか……と受け入れていました。

 しかし高校卒業後に上京してすぐにカルチャーショックを受けました。

 こちらの高校生達はみんなすごく自由に見えました。髪をおろしている、巻いている、メイクしている、スマホを持っている、スカートが膝上丈、制服のまま寄り道も自由……。

 ドラマやアニメの世界でしか見なかった高校生達の姿がありました。

 さらに上京してできた友人や知り合いの話を聞いていると「スカート丈短いって指摘されたら、きゃーって逃げてた笑」みたいなかんじで、それで許されちゃう世界なんだ……とあらゆる方向からショックを受けました。

 高校を卒業する時には「やっとやっと校則から解放される……!」と泣くほど嬉しかったのですが、すぐに気づいてしまいました。

 世の中は身だしなみ規定があるお仕事ばかりです。髪の毛はすべてネットに入れること。アイシャドーはしなければならない、ただしマットのみ可、ラメは禁止。マツエク禁止。女性は最低の最低でもリップはしてください。ネイルは禁止。ネイルはパステルカラー(おじさんだけで考えたんだろうなあ) であれば可……。

 まだまだ縛りはなくなってくれません。

 長いブラック校則生活のおかげで、ある程度ヘアメイクが自由なところでないと働けなくなりました、どうもありがとうという気持ちです。

 最近ニュースでも「ブラック校則」と取り上げられているのを見たり、母校でも校則が緩和されたと聞いたりして、「ニュースにまでしてもらえるんだ……」「緩くしちゃうんだ……」と思ってしまっているのが自分でも気持ち悪くてどうしたらいいかわかりません。

 私が苦しんできたような校則は早くなくなってほしいし、なくなるべきだと思っています。

 でも今さらなくなったところで当時の私は救われないんだなと思ってしまったんです。

 卒業アルバムの写真撮影のとき、前髪をださくピンでとめて、ぼさぼさの眉毛を出して、ノーメイクで。「普段ないような肌荒れとかあった人は肌修整の依頼出してください」って言われたけど思春期ニキビが常にあった私にはそんな権利ないんだろうなと結局何も言わず、あんなどう使われるかもわからない卒アルなんかに顔写真を載せられて他人に配られて。

 もっと校則に反抗してればよかった、醜形恐怖症なのでとか言って無理やりメイクしていけばよかった、私の顔写真載せないでって言う権利があることを知っていればよかった……と私が当時のすべてを恨んでいる横で、年下の子たちがどんどん救われていくのを見るのが本当につらく耐えられません。

 正直ブラック校則のニュースや話題はもう見るのも嫌です。

 とても老害的だと思われるかもしれませんが、年下の子達につらい思いをしてほしいわけではないんです。ただ私も救われたいだけなんです。

 もう何年も答えが出ずに苦しいです、助けてください。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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